アートのコツライブラリー

2010年9月16日木曜日

まちとアートをつなぐコツ

「アートのコツ」 は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、錦二丁目まちの会所の名畑恵さんに「まちとアートをつなぐコツ」を教えていただきました。

 「都市の祝祭」をテーマとする「あいちトリエンナーレ2010」が長者町にやってきました。長者町自らがまちとアートをつなぐ意義を発信する、「都市の祝祭」の担い手となる、そんなまちの人々の心意気は様々なプロセスから育まれてきました。中でも最も象徴的な出来事を、ここでご紹介したいと思います。

タイの美術家ナウィン・ラワンチャイクンさんとは、14人のまちの人、お一人お一人にまちでの思い出や希望を語ってもらうプロセスをご一緒しました。ここでのまちにとっての価値はなんといっても「キーパーソンの発掘」と「まちのオモイの発掘」です。相手がアーティストで外国人だからでしょうか、「その質問に何の意味があるんだ」などと相手の意図を訝しがることなく、素直にまちへのオモイを14人は語りました。アートという呼びかけでもって、人の心の奥にすっと手が届く感覚が確かにありました。語られたことの内容からは、長者町の仕事と暮らしの営みの中にある人と人のつながりがいくつもいくつも浮上してきました。

インタビューを経てそれが映像作品と絵画として表現された時、まちの本質を浮上させ生け捕りにするというエネルギーと貪欲さを感じました。なぜ本質か、一枚にレイアウトされた肖像群は、まちの眼に見える権力構造とは全く違ったものでした。毛糸屋さんや純喫茶、都市のスケールの中ではとっても小さいけれど、宝物のように大切な営みをされてきた女性二人が中央いる、沢山の眼に見えない価値を表現しています。

ナウィンさんの作品は、これだけでは終わりません。インタビューをする過程、アウトプットとしての映像・絵画表現、そして、作品をめぐって一つの場を様々な人が共有することを、全てのプロセスが作品です。まちの人は、彼の挑戦を受けとめ、ナウィンさんが作品のタイトルとした「Place of Rebirth」の意味をよみとき、作品を囲みまちの再生の気分を分かち合うパーティを自らの手で主催しました。駐車場がパーティ会場となり、星空の元、あいちトリエンナーレ関係者も、アートに興味がある人々、そして沢山のとってもうれしそうな表情のまちの人、総勢500名以上の大パーティがひらかれました。まちの包容力がナウィン表現によって最大限顕在化された出来事ではなかったかと思います。

ナウィンさんが風の人のように、大切なものをまちに残して去って行ったあと、まちは地元の祭りを考える時でも、「Place of Rebirth」のキーワードを反芻し、企画を考える場面があります。場所性としてのまちでのアート展開には、作品に終わりがないところに、決定的な価値があると思うのです。

あいちトリエンナーレがはじまって、仕事も暮らしも日常の営みがある中に、非日常的カタチがあらわれてきた今、まちの魅力があちこちで温泉のように湧き出て湯気だっているような観がします。まちで働くOLはこんなことを言いました。「いつもの日常の風景が水溜りにうつっていて、でも日常とは違って見える、そんな水溜りに思いきって飛び込んだ気持ちです。」アートは、アーティストも、まちにいる人も様々な人が、まちの価値の発見をし合う機会だと思います。

最後に、ナウィンさんはパーティのスピーチでこういいました。「みなさんの歴史から、希望がここからはじまります。そして、私の希望もここからはじまります。」まちと、「わたし」というパーソナルなオモイがつながる感覚を伝えてくれる言葉でした。「まちとアートをつなぐコツ」は、「まちと私がつながる」感覚を単純に楽しむことなのかな、と思っています。


名畑 恵
まち育て拠点「錦二丁目まちの会所」事務局長
◆錦二丁目まちの会所 http://www.kin2kaisyo.com
まちのオモイとウゴキが交差する「まち育て」の拠点です。
(愛知産業大学が開設、まちとNPOと協働して運営しています)