アートのコツライブラリー

2010年12月16日木曜日

アートを身近にするコツ


「アートのコツ」 は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、ワンピース倶楽部名古屋支部長の山本真寿美さんに「アートを身近にするコツ」を教えていただきました。

まずは、買ってみることだと思います。
もちろん、美術館へ行くことも、ギャラリーへ行くことも大切なことですが、たくさんの美術館やギャラリーに足を運ぶことと、買ってみることでは、アートを身近に感じられることの度合いが違うのではないかと思います。

まず、鑑賞の仕方が変わってきます。何となく見るのと、買うつもりで見るのでは、鑑賞の気合の入れ方が変わってきます。そして、気合を入れて鑑賞した後、自分のお金で買ってみると、嫌でも身近に感じられると思います。
作品への愛着も湧きますし、作家さんへの愛着も湧くと思いますし、ギャラリーへの愛着も湧くと思います。購入した作品を、どこに飾ろうかと思い悩むのも楽しみの一つ。飾ったら誰かに披露するのも楽しみの一つ、別の場所で作家さんの作品を見つけるのも楽しみの一つ、作家さんの新作に期待するのも楽しみの一つ。買ってみることで、どんどん楽しみが広がっていきます。

私が名古屋支部長を務めるワンピース倶楽部は、こんな感じで買うという行為を目的の一つとして、アートを楽しみたい、身近にしたいと思う人達が集まる倶楽部です。
特に専門知識がある人たちの集まりではありません。専門知識がなくたって楽しめるのです。ワンピースの意味は、洋服でもなく、漫画でもなく、1作品=ワンピースの意味です。
1年間で最低ワンピースの作品を買いましょう、そして、そのお気に入りのワンピースを見つけるために、ギャラリー巡りや美術館巡りなどを積極的にしましょうというルールのもと、アートを楽しんでします。もう一つ面白いルールは、会員は一年間の成果を発表するのです。どのように発表するのかというと、各自購入した作品で展覧会を行うのです。
1年かけて探し、めぐり会った、とっておきのワンピースを展示するのはドキドキワクワクとても楽しいのです。見るだけより、買う方が、断然、楽しいと思いませんか?

アートを身近にするコツ、まずは、買ってみることだと思います。


山本真寿美/ワンピース倶楽部名古屋支部長 
ワンピース倶楽部ウェブサイト http://www.one-piece-club.jp/

2010年9月16日木曜日

まちとアートをつなぐコツ

「アートのコツ」 は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、錦二丁目まちの会所の名畑恵さんに「まちとアートをつなぐコツ」を教えていただきました。

 「都市の祝祭」をテーマとする「あいちトリエンナーレ2010」が長者町にやってきました。長者町自らがまちとアートをつなぐ意義を発信する、「都市の祝祭」の担い手となる、そんなまちの人々の心意気は様々なプロセスから育まれてきました。中でも最も象徴的な出来事を、ここでご紹介したいと思います。

タイの美術家ナウィン・ラワンチャイクンさんとは、14人のまちの人、お一人お一人にまちでの思い出や希望を語ってもらうプロセスをご一緒しました。ここでのまちにとっての価値はなんといっても「キーパーソンの発掘」と「まちのオモイの発掘」です。相手がアーティストで外国人だからでしょうか、「その質問に何の意味があるんだ」などと相手の意図を訝しがることなく、素直にまちへのオモイを14人は語りました。アートという呼びかけでもって、人の心の奥にすっと手が届く感覚が確かにありました。語られたことの内容からは、長者町の仕事と暮らしの営みの中にある人と人のつながりがいくつもいくつも浮上してきました。

インタビューを経てそれが映像作品と絵画として表現された時、まちの本質を浮上させ生け捕りにするというエネルギーと貪欲さを感じました。なぜ本質か、一枚にレイアウトされた肖像群は、まちの眼に見える権力構造とは全く違ったものでした。毛糸屋さんや純喫茶、都市のスケールの中ではとっても小さいけれど、宝物のように大切な営みをされてきた女性二人が中央いる、沢山の眼に見えない価値を表現しています。

ナウィンさんの作品は、これだけでは終わりません。インタビューをする過程、アウトプットとしての映像・絵画表現、そして、作品をめぐって一つの場を様々な人が共有することを、全てのプロセスが作品です。まちの人は、彼の挑戦を受けとめ、ナウィンさんが作品のタイトルとした「Place of Rebirth」の意味をよみとき、作品を囲みまちの再生の気分を分かち合うパーティを自らの手で主催しました。駐車場がパーティ会場となり、星空の元、あいちトリエンナーレ関係者も、アートに興味がある人々、そして沢山のとってもうれしそうな表情のまちの人、総勢500名以上の大パーティがひらかれました。まちの包容力がナウィン表現によって最大限顕在化された出来事ではなかったかと思います。

ナウィンさんが風の人のように、大切なものをまちに残して去って行ったあと、まちは地元の祭りを考える時でも、「Place of Rebirth」のキーワードを反芻し、企画を考える場面があります。場所性としてのまちでのアート展開には、作品に終わりがないところに、決定的な価値があると思うのです。

あいちトリエンナーレがはじまって、仕事も暮らしも日常の営みがある中に、非日常的カタチがあらわれてきた今、まちの魅力があちこちで温泉のように湧き出て湯気だっているような観がします。まちで働くOLはこんなことを言いました。「いつもの日常の風景が水溜りにうつっていて、でも日常とは違って見える、そんな水溜りに思いきって飛び込んだ気持ちです。」アートは、アーティストも、まちにいる人も様々な人が、まちの価値の発見をし合う機会だと思います。

最後に、ナウィンさんはパーティのスピーチでこういいました。「みなさんの歴史から、希望がここからはじまります。そして、私の希望もここからはじまります。」まちと、「わたし」というパーソナルなオモイがつながる感覚を伝えてくれる言葉でした。「まちとアートをつなぐコツ」は、「まちと私がつながる」感覚を単純に楽しむことなのかな、と思っています。


名畑 恵
まち育て拠点「錦二丁目まちの会所」事務局長
◆錦二丁目まちの会所 http://www.kin2kaisyo.com
まちのオモイとウゴキが交差する「まち育て」の拠点です。
(愛知産業大学が開設、まちとNPOと協働して運営しています)

2010年6月15日火曜日

アートの敷居を低くするコツ


「アートのコツ」 は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、GALLERY APAの渡邊見美さんに「アートの敷居を低くするコツ」を教えていただきました。


APAのブログはおもしろい!!」と、ここ最近、読んでくださる方が徐々に増えつつあり、とても嬉しく思っています。
私は、色々なギャラリーのブログも拝読させていただきますが、文章をあえて硬くし、難しくして、きれいにまとめようとしているように思います。
確かに、ギャラリーのブログを読む方は、アートの好きな方ですので、そのほうがいいのかもしれませんが、私には、気持ち、ハートが伝わらないのです。
APA=私の思いは、「アートは、もっと身近に感じてもらうもの」だと思っています。
朝起きて、目覚めの1杯のコーヒーを飲むときのマグカップが、作家の手づくりの作品だったら、おいしさ倍増です。
みんなお揃いのシャネルやルイ・ヴィトンのブランド品のバッグより、世界にたった一つしかない作家手づくりのオリジナルのバッグの方が、個性があり、自分らしさを強調できるのではと私は思います。
50号の大きなキャンバスの油絵でなくても、小さな小さな版画、オブジェでも十分楽しめます。そこから、飾りたい作品のイメージが湧いてくるのではないでしょうか。
私は、アートは手の届くものであってほしい。そうあるべきだと思います。
オンラインショップを昨年4月に立ち上げました。確かに、作品画像1枚で購入するというのは、作家を知っているか、その作品を実際に見たことがあるかで決まると思います。
そして、一番重要なのは、オンラインショップ、APAの信頼性があるかないかです。
まだまだAPAは走り出したばかりですので、長いスパンで考えていますが、ほかのギャラリーのオンラインショップと違うところがあります。
「価格はお問い合わせください。」と価格を表記していないギャラリーが多いです。
2年ほど前、あるギャラリーのホームページで、気になる作品があり、価格を問い合わせたところ、丸が2桁多くて、自分の予想価格をはるかに上回っていました。もちろん、そのギャラリーには電話をすることができなくなりました。他の作品も高いというイメージがついてしまったからです。ギャラリーに携わっている私でさえ、このような気持ちになるのですから…。APAはその価格の面でクリアにするべきだと思い、すべての作品価格を表記しています。きっと、作品の価格と信頼性が敷居を低くするのではないかと思います。


渡邊見美 GALLERY APA二代目。「愛知スト」をメインに紹介。


■展覧会スケジュール
618 ()74() 早川知加子・寺岡麻美子・赤井郁美展
APA F2 では酒向絵美展を同時開催

GALLERY APA
名古屋市瑞穂区汐路町1-15
12:0019:00 月曜日休廊
052-842-2500
  http://www.fuji.bpl.jp

写真/松岡徹展展示風景

2010年3月15日月曜日

アートを増殖させるコツ

「アートのコツ」は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、パフォーマンス集団クロノズの黒野靖子さんに「アートを増殖させるコツ」を教えていただきました。


アート増殖のコツ、それは「匿名性と帰属性」

2010年2月28日現在までに425人の男女が黒髪とメガネの私の姿に変装し、伊達メガネに水色のワンピース、そしてカツラを身につけ世界の各地に登場している。

10年前に行われたダンスと音楽のコラボレーション作品中、5分に満たない短いシーンで現れたクロノズ。

参加者の変装願望を満たし、気軽に共同体の一部になるという感覚、また揃いの衣装を着用することによって「誰でもない私」になるという匿名性がかえって自分らしさを意識させるのか、参加者の数は増えている。

揃いの衣装さえ身につければ、クロノ自身が不在でもクロノズは成立する。

クロノ不在の「遠隔オペレーション」の事例をいくつかの事例を紹介したい。

<エピソード1>

1枚の写真を自宅のプリンターでポストカードに加工し、豪州から訪ねてきていたプロデューサーに名刺代わりに渡した。それから数週間後、そのプロデューサーのアドバイスを受けているという若手のアーティストから、現地でやりたいというメールがあった。

私は地元の郵便局から衣装セットを送り、その数週間後にはクロノズがオーストラリアに上陸していた。

そしてそれがきっかけとなり、100名を超えたオーストラリア各地で2009年10月、同時大量増殖が行われた。

KURONOZ in Australia
http://www.youtube.com/watch?v=o8Xup5kMwEM

KURONOZ Take Off Your Skin (TOYS)
http://www.takeoffyourskin.com/


<エピソード2>

米国シアトルを拠点に活躍しているダンサーであり、大学で教鞭をとっている旧友からもやってみたいという申し出があり、シアトルにも衣装セットを送った。彼らは現地のフェスティバルに参加し、小さな遊園地で回転木馬やローラーコースターに乗った。

またシアトルでクロノズに参加していた女性はイタリア出身の留学生だったがこの冬、衣装セットを実家に持ち帰り、両親に着せて短い映像作品を残した。

シアトル版
http://www.youtube.com/watch?v=PnU7lztkqJ8&feature=related

イタリア版
http://www.youtube.com/watch?v=QApX90YiZbk

グローバリゼーションの波に乗って工場で生産される製品と同じ様に現地のニーズに合わせ、現地の世話人(エージェント)達がとりまとめ、広げていく。

人々を媒介して新型インフルエンザウイルスが海を越えていった様に、コンセプトという情報と衣装セットというモノが人々の好奇心を触発する事により、クロノズは世界を旅し、拡大していく。

2010年4月、フランス、パリ郊外にあるアートセンターで行われる日本文化のイベントで、パリ在住のダンサー/振付家が率いるクロノズがオーストラリアから調達された衣装を身に着け登場する様である。


黒野靖子 名古屋生まれ。クロノズの原型モデル。

■今後の活動予定

2010年4月17日
『ファッション・マンガ』アンギャン・レバン・アートセンター(フランス)
http://www.cda95.fr/

写真撮影/Bill Buckley