アートのコツライブラリー

2010年3月15日月曜日

アートを増殖させるコツ

「アートのコツ」は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、パフォーマンス集団クロノズの黒野靖子さんに「アートを増殖させるコツ」を教えていただきました。


アート増殖のコツ、それは「匿名性と帰属性」

2010年2月28日現在までに425人の男女が黒髪とメガネの私の姿に変装し、伊達メガネに水色のワンピース、そしてカツラを身につけ世界の各地に登場している。

10年前に行われたダンスと音楽のコラボレーション作品中、5分に満たない短いシーンで現れたクロノズ。

参加者の変装願望を満たし、気軽に共同体の一部になるという感覚、また揃いの衣装を着用することによって「誰でもない私」になるという匿名性がかえって自分らしさを意識させるのか、参加者の数は増えている。

揃いの衣装さえ身につければ、クロノ自身が不在でもクロノズは成立する。

クロノ不在の「遠隔オペレーション」の事例をいくつかの事例を紹介したい。

<エピソード1>

1枚の写真を自宅のプリンターでポストカードに加工し、豪州から訪ねてきていたプロデューサーに名刺代わりに渡した。それから数週間後、そのプロデューサーのアドバイスを受けているという若手のアーティストから、現地でやりたいというメールがあった。

私は地元の郵便局から衣装セットを送り、その数週間後にはクロノズがオーストラリアに上陸していた。

そしてそれがきっかけとなり、100名を超えたオーストラリア各地で2009年10月、同時大量増殖が行われた。

KURONOZ in Australia
http://www.youtube.com/watch?v=o8Xup5kMwEM

KURONOZ Take Off Your Skin (TOYS)
http://www.takeoffyourskin.com/


<エピソード2>

米国シアトルを拠点に活躍しているダンサーであり、大学で教鞭をとっている旧友からもやってみたいという申し出があり、シアトルにも衣装セットを送った。彼らは現地のフェスティバルに参加し、小さな遊園地で回転木馬やローラーコースターに乗った。

またシアトルでクロノズに参加していた女性はイタリア出身の留学生だったがこの冬、衣装セットを実家に持ち帰り、両親に着せて短い映像作品を残した。

シアトル版
http://www.youtube.com/watch?v=PnU7lztkqJ8&feature=related

イタリア版
http://www.youtube.com/watch?v=QApX90YiZbk

グローバリゼーションの波に乗って工場で生産される製品と同じ様に現地のニーズに合わせ、現地の世話人(エージェント)達がとりまとめ、広げていく。

人々を媒介して新型インフルエンザウイルスが海を越えていった様に、コンセプトという情報と衣装セットというモノが人々の好奇心を触発する事により、クロノズは世界を旅し、拡大していく。

2010年4月、フランス、パリ郊外にあるアートセンターで行われる日本文化のイベントで、パリ在住のダンサー/振付家が率いるクロノズがオーストラリアから調達された衣装を身に着け登場する様である。


黒野靖子 名古屋生まれ。クロノズの原型モデル。

■今後の活動予定

2010年4月17日
『ファッション・マンガ』アンギャン・レバン・アートセンター(フランス)
http://www.cda95.fr/

写真撮影/Bill Buckley