アートのコツライブラリー

2011年12月15日木曜日

地域でアートを展開させるコツ


「アートのコツ」はアートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、常滑フィールド・トリップ2011実行委員長の坂倉守さんに「地域でアートを展開させるコツ」を教えていただきました。

愛知県常滑市。名鉄常滑駅から10分ほど歩くと時代が昭和へと遡ったかのような場所があらわれる。小高い丘陵地のこのあたりは、焼き物工場が密集していた一帯。しかし、産業の衰退とともに、その面影を残しつつも今では空き地や空き家が目立つ寂れた光景が広がっている。だが、その風景の中、細い路地が入り組む迷路のような道を歩いていると、なぜか不思議と作品イメージが次々と湧きあがってくる。

私たちが、この土地にアートとデザイン関係の工房を開いて活動をはじめたのが2005年。その流れから、20084月に常滑フィールド・トリップという町並みを利用したアートプロジェクトは始まった。私たちと関わりの深い芸大性や卒業生などとともに自ら企画を立ち上げていったのが、コトの発端である。しかし、それは町おこしなどを目的としていたのではなく、自分たちの表現意欲の発露としてであった。

観光用のコースとも一部重なる展覧会ルートは、距離にして約1.5km。その区間に10数作品が点在し、歩いて巡る。ただ歩くだけなら15分ほどなのだが、じっくり作品を見てまわれば半日ほどかかる。常滑という地域の歴史風土の色濃い風景。その中を通り抜けながらの作品鑑賞は、コースや会場の設定と相まって短いけれどトリップ感あふれるものとなっている。たまたま常滑観光に訪れた人たちも思いがけず遭遇した作品を「現代アート」として変に構えることなく興味深げに観て触れて楽しんでもらえているようだ。

本企画の第1回目では、作品を発表する作家自らが実行委員として企画運営に携わり、常滑に滞在しながら数か月の期間をかけて展覧会そのものと作品をつくりあげてきた。会場借用の交渉や滞在を通じた日常的なコミュニケーションなどにより地域の人々との関係も築かれ、展覧会と作品が様々なチカラの集合としてカタチを成してくる様が実感できたのである。以来、毎年続いて今年2011年では4回目を数えるにいたっているのだが、流動的な学生や他地域で暮らす作家などが毎年まとまって実行委員会組織を形成することは難しく、運営上の苦労が絶えない。安定した運営のためには地域の人が受け皿となるような組織づくりが必要なのだろう。幸い、実行委員やボランティアとして関わってくれる人も地域の中から少しずつ集まりだしている。

瀬戸内などの大きなアートプロジェクトなどとは比べるまでもなく、私たちの取り組みは実にささやかなものだ。展覧会が終われば、何も残ることなくいつもの風景に還る。ひととき姿を現す作品や出来事。それらは地域をはじめ様々な人々の中で微かな記憶として残っているにすぎないのかも知れない。「何を目的に」と自問し「地域の・・・アートの・・・」と答えようとして口ごもりつつ、それでも来年もまた、取り組んで行くことになるのだろう。人との関係を大切にしながら、少ない予算をやりくりし、無理をせずのんびりと。

坂倉守 
常滑フィールド・トリップ2011実行委員長
2005年より常滑市にて実験的なギャラリー兼工房「art&design rin’」を共同で運営